industofu’s blog

音楽を聴きながら感想をつらつら書くチラ裏ブログです。

4) Impaled Northern Moonforest - Impaled Northern Moonforest 7"EP

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Label: Menace To Sobriety Records - MTS 005
Format: Vinyl, 7", Limited Edition
Released: 2000

先週からどうも自律神経が不調らしく、目眩・頭痛・吐き気…と音楽聴く気にならない症状がひどい日が続いた。リズムのある音楽は目眩がひどくなるし、かといってノイズやら聴いても頭痛がひどくなるし…。まあ無理して聴くこともないし、「こうやって、心身の変化のせいで音楽が聴けなくなることもあるのかもしれない」と思うと、むしろ持っている音源を整理しておこうという気にもなったので、いい機会だったと思う。自分はあまり「モノ」として音源を持ち続けることに執着はないほうだと思っているのだけれど*1、CDやレコードのラックを見渡して少し整理してみると、意外と死蔵している音源があったことに気付いた。

そういうわけで、何となく手放すのが惜しい気がして長いあいだ手元に置いていたものの、今回やっと手放すことにしたこの音源。このImpaled Northern Moonforestは、一部では有名なブラックメタルのパロディで、やっているのはAxCxのセス・パットナムとジョシュ・マーティン。マーティンがアコースティックギターブラックメタルっぽいリフをかき鳴らし、パットナムがドラムの代わりに自分の膝をペチペチ叩きながら奇声をあげる。もちろん即興(というか思いつき)。お笑いで言うところの「出オチ」みたいなもので、一度聴いて爆笑してしまうともう何度も聴きたくなるような音ではないのだけれど、限定200枚で(メンバーは200枚も売れるはずないと思っていたらしいが)、一部ではカルトなコレクターズ・アイテムとなっているらしいという話を見聞きすると、何となく手放したくない気分になってしまうもので、ずっと「とりあえずモノを持っているだけ」の状態が何年も続いていたわけである。しかし考えてみれば、こういった面白いアイテムは、私はもう十分たのしんだのだからあとは他の人に楽しんでもらったほうがよい。

さて、彼らについて情報を集めているサイトによると、結成の経緯は「1997年のある凍てつく(frostbitten)夜の3時、暇を持て余したマーティンとパットナムは、真性(ジョークだけど)ノルウェージャン・スタイルのブラックメタル・バンドを組むことを決めた。とはいえ、近くに寝ている人がいたので、エレキギターやドラムセットを使うわけにはいかず、アコースティックギターを使い、セスがパーカッションとして自分の膝やマットレスを叩くことになった」とのこと。この一節にも出てくるfrostbittenという単語は明らかにImmortalの"Grim and Frostbitten Kingdoms"を意識したもので、収録曲のうち4曲のタイトルに出てくるほか、クレジットでもA面の録音がGrim And Frostbitten Studios、B面の録音がGrimmer And Even More Frostbitten Studiosとされているなど、これでもかという勢いでパロディ化されている。

www.youtube.com

Immortalの同曲はメンバーが雪山でプレイするビデオクリップ(上の動画参照)が視聴者に衝撃(人によっては笑撃)を与えた曲で、中心人物のAbbathのメイクと併せてブラックメタルが戯画化されるときの定番ネタになっているのだけれど、ネットに蔓延るブラックメタルカリカチュアに比べても彼らINMのユーモアのセンスは素晴らしい。すでに述べたスタジオの名前(Grimmer And Even More Frostbitten Studios)しかり、無駄に長い曲名しかり。無駄に長い曲名というのは、たとえば"Lustfully Worshiping the Inverted Moongoat while Skiing Down the Inverted Necromountain of Necrodeathmortem"のような感じで、他の曲もnecroだのblasphemousだのnocturnalだの、何か「それっぽい」単語を散りばめて遊んでいるのだけれど、私はこの無駄に長い曲名が彼らの音楽以上に面白いと感じている。というのも、ブラックメタルの曲名には"Beyond the Great Vast Forest"とか"Eternal Years on the Path to Cemetary Gates"とか、有名な作品を一瞥しただけでも「なんかちょっと長ぇな…」と感じてしまうものがたしかに散見されるからで、そこに目をつけて徹底的にイジり倒した彼らのセンスはやはりさすがだと思うのである。

ちなみに、クレジットを信用するならば本作の録音は1997年の3月と9月。AxCx名義で発表された全編アコースティックでのラブソングのパロディ、Picnic of Loveの録音が1997年12月。本作でアコースティックギターを使ったパロディの面白さに味をしめたメンバーがさらに悪ノリしてPicnic of Loveの制作に取り掛かった……のかどうかは知らない。

*1:このエントリーを書く少し前に、ピエール瀧の逮捕によって電気グルーヴの音源の配信が停止されたというニュースと、MySpaceにアップされていた音源のデータがすべて消えてしまったというニュースが重なり、予想どおり一部では「やっぱりフィジカルで持っとかないとねぇ」的な反応が出ているが、自然災害等でCDやレコードが破損したというニュースが流れたときには「フィジカルで持っていても安心できない」という声が上がっていたことを私は覚えているので、フィジカルかデジタルかなんてこういう短期的な印象によって左右される考えでしかないと思っている。