industofu’s blog

音楽を聴きながら感想をつらつら書くチラ裏ブログです。

【勝手に翻訳】MERZBOWインタビュー(1997)

Venereology再発にちなんで、同作品について語っている箇所があるインタビュー記事を読んだので、勢いでゲリラ翻訳しました。Corridor of Cellsというウェブジンに掲載されていたもののようで、ここにアーカイヴされています。翻訳の細かいニュアンス等が気になる方は原文でお読みください。

MERZBOWインタビュー(1997)

ジャパノイズの頂点として知られるMerzbow秋田昌美)は、その獰猛なまでのハーシュノイズというブランドにより多大な追従者を生み出してきた。1990年代に「ノイズ」をポピュラーなジャンルとして確立させた人物として多くの人が認めるこのアーティストを、インタビューを通じて簡単に紹介しよう。

インタビュアーMerzbowの活動はいつ、どのような動機で始めたのでしょう。

Merzbow:ノイズを制作し始めたのは1979年です。楽器を演奏することに飽きて、何か新しい音楽の形式はないだろうか…と探究し始めたのが動機です。

インタビュアーMerzbowという名前は、クルト・シュヴィッタースメルツバウMerzbau)から取られていますよね。これはシュルレアリスム的なコラージュ作品ですが、なぜダダやシュルレアリスムからこのような強い影響を受けたのでしょうか。

Merzbow:特に強い影響を受けたのはアルチュール・ランボーロートレアモンジャン・ジュネといったシュルレアリスム前夜の詩人たちですが、それは彼らの姿勢がロックンロールにきわめて近かったからです。当時わたしは芸術科に通っていて、毎日のように絵を描いていました。そこでまずジョルジョ・デ・キリコとダリに感化され、それからマルセル・デュシャンの著書を読みました。その本ではダダやシュルレアリスムに関することが論じられていて、それを読んで私は、ダダイストたちがなぜ既存の芸術の形式を打ち壊そうとしたのか理解しました。そして、自分は既存の音楽をすべて壊そうと決めたのです。私からすると、ピエール・ブーレーズフランク・ザッパを除けば、本当にシュルレアリスム的な音楽を作った作曲家はそれまで存在しませんでした。また、ブーレーズとザッパにしてもまだ音楽的すぎる。もっと非音楽的なやり方で、本当のシュルレアリスムを実現したかったわけです。さらに言えば、シュルレアリスムとは無意識に触れようとするものです。ノイズもまた音楽の原初的な集合的無意識であるという点で、通じるものがあります。現に、私は即興(improvisation)ではなく、自動筆記(automatism)によって曲を作っています。

インタビュアー:あなたの最初の作品*1にはポルノ写真が付属していましたね。あなたにとって、ノイズとエロティシズムにはどのような繋がりがあるのでしょうか。

Merzbow:ポルノグラフィを使うようになったのは、メール・アートとしてカセットとポルノ写真を一緒に送るということを思いついたのが最初です。私が作りたいのはもっとも低級な形式の音であり、それはポルノグラフィに通じるところがあると思います。ポルノは文化の無意識、人類のリビドーですから。

インタビュアー:日本のノイズ・シーンはどのようにして始まったのでしょうか。Merzbowの活動を始めた頃はどんなアーティストやグループから影響を受けましたか? また、これだけ多くのノイジシャンを生みだすような特別な土壌が、日本の文化(もしくは対抗文化)にはあるとお考えですか?

Merzbow:ノイズというものが生まれる前から、それに関わるようなシーンはありました。1970年代初頭にはロスト・アラーフのようなフリーロック・バンドがいたし、フリーミュージックやパンクの後には非常階段が現れ、1980年代初頭にはすでにノイズ的なパフォーマンスを展開していましたから。ただ、その時期にはまだ「ノイズ」という言葉は使われていませんでした。当時の音楽に携わっていた人たちの多くは、「ノイズ」をスノッブな芸術だと感じていました。わたし自身はすでにノイズを作り始めていましたが、80年代の間はあまり人前でのパフォーマンスはしていません。

インタビュアー:同じような作品を出してマンネリに陥ることなく作品を作り続けることのモチベーションは何でしょうか? 新しい作品を作るときはどんな新しいアイディアやコンセプトを考えるのでしょう?

Merzbow:私はとにかくできるだけたくさんの作品を出したいと思ってやっているので、私の作品を聴く人の多くは作品間での微妙な変化には気づかないでしょう。最近の作品を少し聴いただけだとそう思わないかもしれませんが、例えばあなたが1年おきにその時点での私の最新作を聴き比べていったとしたら、多くの変化に気づかないと思いますよ。私にとってはすべての作品に変化があるのですが。

インタビュアー:ノイズを作るとき、どんなツールを使いますか?

Merzbow:オーディオミキサー、コンタクトマイク、フィルター、ディストーション、EMS Synthi A、発振器…といったところです。

インタビュアー:いろいろな映画(多くは不二企画*2やイアン・ケルコフの)のサウンドトラックも手がけていらっしゃいますね。それらの映画の制作者はどうやってあなたの音楽に関心を抱いたのでしょう。また、どのような映画に使われているのでしょうか。

Merzbow:あるとき不二企画の撮影を見に行って、そこで演奏してみたら彼らが興味を持ったので、音楽を担当するようになりました。イアン・ケルコフの場合は、MerzbowNoise Forestに提供した曲をショートフィルムで使ったのがきっかけだったと思います。その後、『デッドマン2』を制作するのでサウンドトラックを作ってほしい、という連絡がありました。

インタビュアー:過去に話をうかがったあるノイジシャンは、ノイズというのは音楽の一ジャンルなのではなく、それ自体として存在する何かなのだと言っていました。CDという媒体で発表されたものがすべて音楽だというわけではない、とも。この意見には賛成ですか? また、「ノイズ」と「音楽」に何か繋がりがあるとすれば、それはどんなものでしょう。

Merzbow:私の作品においてはノイズと音楽に何か違いがあるわけではないし、あなたが「ノイズ」と「音楽」という言葉でそれぞれ何を指しているのかも分かりません。それは人によって違ってくるでしょうから。もし「居心地が悪くなるような音」を「ノイズ」と言うならば、私にとってはポップミュージックがノイズだということになります。

インタビュー:ライブではしばしば他のアーティストと共演されますよね。ボーカリストとの共演さえありました。どのようなアーティストと共演することが多いのでしょうか。

Merzbow:私の音によってかき乱されないアーティストと共演したい、と思っています。

インタビュアー:1988年にソビエト連邦でライブをされていますね。オーディエンスはあなたが作るような音楽には相当不慣れだったと思いますが、反応はいかがでしたか? そもそも誰の企画だったのでしょうか?

Merzbow:ロシア極東部にあるハバロフスクで開催されたAMUR Jazz & Experimental Music Festival*3に呼ばれたのですが、企画者は雑誌でMerzbowの名前を見たというだけで、日本のハイテク・ミュージシャンだと思っていたようです。それがアナログ・ノイズをやりだすのだから、何をやっているのかまったく理解していなかったでしょう。もちろん彼らは「ノイズ」というジャンルさえ知りません。その日は30分でストップさせられて、翌日も同じようにやったら「もっと音楽的なものをやってくれ」と言われました。彼らにも悪気があるわけではないので、そのときはキーボードとドラムのデュオ*4で音楽らしい音楽をやりました。

インタビュアー:今やノイズは、デスメタルをはじめ他のエクストリームな音楽のファンにも聴かれるようになっています。ノイジシャンがデスメタル(Brutal Truthなど)に影響されることもしばしばだ、とあなたは言っていましたが、音楽的にはまったく異なるこれらのジャンルの間でクロスオーバーが生じると考えるのはなぜですか?

Merzbow:90年代初期のデスメタルからは影響を受けました。特に大きかったのはブラストビートの存在で、ふたたびドラムに興味を持ってBustmonsterFlying Testicleといったバンドを組んだくらいです。なので、Morbid Angelや初期Napalm Death、初期Carcassなどの、いいドラマーのいるバンドが好きでした。もう一点、病理学的なイメージや死体の写真をアートワークに使っている初期Carcassや初期Cadaverは、趣味が近いと感じます*5。GutやDead、Meatshitsなどの過激なポルノを使ったアートワークも好きですね。Merzbowにとっての影響は、グラインドコアのスピードとかデスメタルのエッジの効いたギターの音とか、そういった抽象的なレベルでの影響です。DODのペダルを使うようになったのもデスメタルの影響ですね。グラインドコアは私にとってまったく新奇なものでしたが、デスメタルはむしろ、昔から好きなBlack Sabbathに近いものを感じました。もっとも、今はデスメタルがメロディックになったりミドルテンポになったりしているので、興味を失ってしまいました。今でも聴くのはAutopsyとその他すこしだけです。

インタビュアー:10年後、20年後のMerzbowはどんな作品を作っているでしょう? まだ形になっていないアイディアはあるのですか?

Merzbow:まだ実現していないアイディアはたくさんありますよ。

インタビュアー:Relapseから出た最新作、Pulse Demonについて教えてください。過去の作品とはどういった点が違うのでしょうか。

Merzbow:Pulse Demonはもう最新作ではありません。それ以降CDを12枚、それとレコードも何枚か出しています。なのでここでは、Pulse Demonの前にRelapseから出したVenereologyとの違いについて話しましょう。Venereologyはデスメタルのレーベルから作品を出す初めての機会だったので、「デスメタル」そのものを念頭に置いていました。その辺りのデスメタル・バンドよりもずっとシリアスな死体のアートワーク(私からすると、ジョエル=ピーター・ウィトキンやJ・G・バラードのような)を作りましたし、リズムは過去の作品より少し遅めですが、ずっとヘヴィに、そしてオーバーレベルや汚いサウンドをたっぷり取り入れました。録音中は大量のビールを飲んでいたことも付け加えておきましょう。これらはすべてデスメタルからの影響ですが、スタイルそのものがデスメタルなわけではありません。むしろ、デスメタルよりもっと過激なものを作りたかったのです。一方、Pulse Demonは通常のやり方で作っています。デスメタルを意識してはいないし、録音中に酔ってもいません。音はVenereologyよりクリアでシャープで、よりピッチの高いリズムを使っています。EMSシンセサイザーも使用し、アートワークはPhilips現代/前衛音楽シリーズのような、70年代フランスのエレクトロアコースティックへのオマージュです。基本的にこのジャケットの輝く銀色は、ヘヴィメタルの色――ここでいうヘヴィメタルは、ウィリアム・バロウズが言う意味*6で使っていますが――で、過去にHeldonとKing Crimsonがこのアイディアに手をつけていました。Pulse Demonと一緒にMagnesia NovaElectric Saladも録音しましたが、これら2作はよりシンセサイザーやミュージック・コンクレートの要素を含んでいます。Pulse Demonというタイトルは70年代にイギリスで活動していたアフロロック・バンドDemon Fuzzから取っていて、いくつかの曲のタイトルはジョン・アップルトンのAppleton Syntonic Menagerieのパロディになっています。

インタビュアー:おすすめのアーティスト、バンド、ノイジシャンを教えてください。

Merzbow:私がふだん聴いているのは60%が70年代のプログレ、30%が70年代のエレクトロアコースティックです。70年代初期のロックと前衛音楽はどれも素晴らしいですよ。

*1:Fuckexerciseかな?

*2:緊縛ビデオのメーカー。Merzbowが手がけた楽曲はMusic for Bondage Performanceなどで聴ける。

*3:Discogsの情報だと、イベントのタイトルはJAZZ-ON-AMUR '88IV Soviet Far East & Festival of Jazz & Improvized, Electroacoustic, Experimental Music "We're XX Now"になっている。

*4:MerzboxのDisc 26で聴けるので、ご確認あれ。

*5:参照:Carcass - Reek of Putrefaction, Cadaver - Hallucinating Anxiety

*6:麻薬、もしくは麻薬の酩酊状態という意味…ってことでいいんでしょうか。